さいたま政経セミナー R5年度連続講座「あなたの隣の社会課題」

去る10月28日、春日部市市民活動センター会議室にて、埼玉政経セミナーの連続講座第2回目を開催いたしました。8月24日に開催した1回目「あなたの隣の外国人」では、家族が外国人という共通項はあるものの、具体的な状況が異なるパネラーの話を聞きました。外国人が日本に在留する際の手続きの煩雑さ、入管での外国人への差別的扱い、子どもの母語をどうするかというアイデンティティの悩みなど、いわゆる「普通」の日本人だけの家族では全く見えない悩みがあることが分かりました。ただこれが見えないで済むのは、今現在「普通」の日本人の家族だけという立場であるだけのこととも言えます。いつ、どんな状況で自分がマイノリティ側になるかもしれない。もしくは自覚がなくても、マイノリティ側になっていて、窮屈な思いを当たり前と思って過ごしているかもしれない。

 今回は「普通」とは?について、他のマイノリティの人の話から深めていこうと開催いたしました。

あなたの隣のLGBTQ

第2回目のテーマは「あなたの隣のLGBTQ」でした。今回はトランスジェンダー男性(女性→男性)のお二人をパネリストとして、シンポジウムを開催しました。

最初に埼玉県草加市のVISION!~for Transgender~代表の岩井紀穂氏から、パートナーシップ制度とLGBTQ+の社会的困難についてのお話がありました。現在同性婚が認められていない日本において、2015年に東京都の渋谷区と世田谷区でスタートしたパートナーシップ制度は婚姻に準ずるものとい思いきや、「普通」の異性の婚姻ではある法的な保障(税金控除・相続など)は一切ないとのことでした。公営住宅の入居ができる他、民間企業では携帯の家族割が使えるなどの対応はあります。ですが、パートナーシップ制度は自治体によって細かい規定がバラバラで、同性カップルのどちらかが単身赴任になり、同居要件が満たされないと認められなくなることがあるなど、まだまだ制限の多い制度です。それでもまずは埼玉県63自治体全てにパートナーシップ制度の導入をしたいと、岩井氏が熱く語られていたのが印象的でした。岩井氏の活動拠点である草加市のパートナーシップ制度創設過程のヒアリングで、審議委員会の内の1人に差別的な質問を多数受けたことで「制度がないことが差別を生む」という考えになられたということで、制度を作ることへの熱量の理由が分かりました。他に今LGBTQの話になると何かと話題になる「心が女性だと騙る男性がお風呂やトイレに入って犯罪をしたらどうするのか?」という件について、性的少数者、とりわけトランスジェンダー女性は人数が少ないので、トイレやお風呂で会う可能性が極めて低い。そもそも、良く挙がるケースでの犯罪の主体はLGBTQではなくシス男性。LGBTQ批判ではなく、性別問わず性犯罪自体を撲滅することにエネルギーを使うべきと明快な解決策を提起されました。

2人目は世界初のトランスジェンダー男性議員となった元入間市議の細田智也氏からパートナーシップ制度について、条例と要綱の違いについての説明がありました。条例は各自治体の法律で、要綱は各自治体の指針や基準です。ですので、要綱より条例の方が強い効力を持つ規定となります。LGBTQの方の権利を考えると、条例の方が良さそうですが、パートナーシップ制度を条例としている自治体は渋谷区などほんの一握りだそうです。その大きな理由として、条例だとパートナーシップ制度を申請すると議会の承認が必要であることが挙げられます。申請して議会で否決されてしまうと、パートナーシップ制度を認めてもらえないという状況に陥ります。もちろん、条例自体を可決するハードルの高さもあります。細田氏は入間市のパートナーシップの要綱を通すために、多数会派への根回しを相当綿密に行ったというエピソードを披露されました。条例でなく、要綱でもこの大変さ。地域差もあるとは思いますが、条例可決はどれだけ大変かは言わずもがなでしょう。でも希望もあります。市民からの意見として、パートナーシップ制度が採択されていると、他の差別にも寛容な自治体であるという安心感があるというものがあったそうです。パートナーシップ制度などハード面に目がいきがちだが、思いやりや共感、理解などのソフト面もの両輪が上手く回るような社会像が理想と述べられていました。

マイノリティ当事者たちの複雑な想い

お2人の問題提起を受けた上でのパネルディスカッションです。LGBTQを取り巻く環境については、最近とみにニュースが多く、会場の質疑も全体として活発に行われました。

最初に「LGBT理解増進法について、LGBTQの方の間でも賛否両論あるが、パネラーのお2人はどういう立場か?」という質問。両者とも一応は賛成の立場と回答されました。特に岩井氏の「不十分な法であるのは分かっているが、今、目の前の当事者を救うために使えるものは使う。」という決意は、先の問題提起で話されたLGBTQの方の権利の弱さを改めて突き付けられるようで胸に迫るものがありました。

次は歌舞伎町のジェンダーレストイレについての質問。岩井氏は「実際に行ったが、設計や設置場所の治安の悪さなど問題が多くて、警備員も配置され異様な雰囲気になり閉鎖されるのも当然。女性側の不安を取り除く議論が必要。」ということで、細田氏も概ね同じ意見でした。LGBTQ当事者にここまで批判的に言われるトイレになってしまったという状況について、どこまで当時者や女性に話を聞いて設置したのか疑問を抱かざるを得ません。

そして「LGBTQに批判的な意見を持つ保守層には、どうやって理解を広げていくか?」という質問には、主に細田氏が「保守層でも若い人には理解が広がっている感じがあるが、ある一定以上の年齢層になるとどうしても理解が得られない。どうしたら良いのか模索中。」とのことで、年齢による理解の差異が顕著であることが分かりました。事実、シンポジウムの若い会場参加者はパネラーの話に大いに頷き、納得している様子も見られました。

その次はスポーツの男女別の競技で、トランスジェンダー女性が肉体的にどうしても有利になってしまうことについて。細田氏は「実際身体の差はある。将来的には男女混合競技になることが理想。」との回答と同時に「スポーツの問題はトランスジェンダー女性が有利であることだけが話題になり、トランスジェンダー男性が不利であることが議論にならない。」という重要な指摘がありました。前記のお風呂やトイレの問題も、トランスジェンダー女性のことばかりです。ある意味【元女性】に対する女性差別を、トランスジェンダー男性にも行っていると言える状況で、差別の問題は根深いと感じました。

時間も迫り最後の質問「ここまでの話で親という視点が抜けている。親が責任を持って性教育をするべきではないのか?」と、最後の最後で議論が白熱しそうな質問が飛び出しました。岩井氏が質問者に「あなたは実際にどのような性教育をお子さんにされたのですか?」と質問者は「自分に子どもはいない。」この回答を受けて、岩井氏が「それでは現実味のない話ですね。」と一蹴。コーディネーターの母が、未婚の女性は産婦人科に行くものではないという価値観で、通院できず病が悪化し救急搬送されたというエピソードも出ました。最近は『おうち性教育はじめます』など、親向けの分かりやすい性教育の本が人気を博しているなど、性教育に注目している親が多いのは事実です。ですが、親は選べず、そもそも親がいない子どももいます。その為の公教育だと、教育論まで議論は及びました。質問者の近い席の知り合いと思われる方が「日本の歴史から学んでほしい」と意見されて、「どの時代の歴史なのか?」と会場から質問がありましたが「日本の歴史全てです。私は議論をするつもりはありません。」ということで、シンポジウムの時間も延ばせるギリギリになったこともあり、パネルディスカッション終了しました。もう少しこの議論が早くできていたら、どのような着地点になったかと残念な気持ちが残りました。

知らないことによる漠然とした恐怖と差別

前回のテーマ外国人でも共通しますが、知らない属性の人への漠然とした、人によっては無自覚の恐怖感が差別の根源ではないかと感じました。「良く分からん奴らが何かやらかすかもしれない。」という猜疑心をヒシヒシと感じるのです。外国人への抜き打ち検査、帰化している元外国人を容姿だけで判断して在留カードを出せと迫る。LGBTQでは、岩井氏が少し触れられた2022年の埼玉県さいたま市のファミリーシップ宣言の年に一度の子どもの意志確認の義務案。(異論噴出で宣言の時の一回のみの確認に修正)岩井氏は「子どもの意志確認をするなら全ての家庭やるべき」という尤もな意見も同時に言われていました。「普通」の異性の婚姻なら、児童相談所の介入がある家庭でさえも子どもの意志確認の義務はありません。これは差別以外の何物でもないと思うのです。外国人だと犯罪のニュース、LGBTQだとトイレやお風呂の件などを受けて偏見が増し「やはり外国人は、LGBTQはけしからん。今までの社会から変えない方が良いんだ。」という人間が本能的に求める現状維持という衣をまとった差別が強化される悪循環。

 岩井氏がポロっとこぼした「LGBTQの人が生きやすい活動をしなくて良いなら、他の人に任せたい。性別にこんなに振り回される人生になるとは思わなかった。」という言葉はとても重いです。人権は生まれながらに持っているもので、その人らしく生きることは日本国憲法も保障しています。なのに、仲間や支持者はもちろんいらっしゃるでしょうが、それと同等かそれ以上の無理解による心無い言動に、パネラーのお2人は晒されてきたことでしょう。白川秀嗣埼玉政経セミナー共同代表の総括でもあったように、対話の場を作りお互いを知ることが日常的に必要であると感じました。知らないが、知っているになる変化は大きいと思うのです。知ることによって細田氏が言われた「他人事を自分事にする想像力が他人を尊重する」社会に近づくと希望を見いだせると信じたいです。

次回、3回目の講座は12月23日(土)に開催いたします。次回のお隣さんは、「若者・女性」の人たちです。今までのテーマに比べ、人数が多いマイノリティ。それゆえに「普通」として日常に溶け込んでしまい見えていないことが沢山あると思います。果たしてどこまでが、何が「普通」なのか?パネラーと会場が一体となって、掘り下げていきたいと思います。

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